おせん・第9話「本枯節(ほんかれぶし)前編」
「おせん」、最終回は2話連続。9話はその前編でした。
とてもいいお話でした。
伝統とか文化とか、それを守り続けることの難しさと、気高い心意気を描いてくれました。
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今週と来週はじっくりと長いレビューを書きたいと思います。
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ある日、おせん(蒼井優さん)は馴染みの乾物屋へ顔出しする。
すると、入院中の主人の代わりを務める息子が、「高いばかりで採算があわないので、今後は本枯節の取引をやめる」と言う。
その上、今は荒節(あらぶし)を本枯節(ほんかれぶし)といって売っても客は誰も気付かない、だったら価格の安い荒節だけ売ればいいんだと言い放つ。
それを聞いて、かつお節職人やお客をバカにしていると、カッとなったおせんは、手にしたかつお節で息子を殴ってしまう・・・。
警察におせんを引き取りにいく江崎(内博貴さん)。
しょげ返ったおせんを一升庵の若手たちは、「おせんさんが正しい」となぐさめる。
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数日後、乾物屋の主人がおせんに謝りにやってくるが、どうも本枯節をつくっている「ヤマジョウ」自体がその製造中止を決めたようだと聞かされる。
長年、「ヤマジョウ」の本枯節を料理に使ってきたおせんは驚き、そこへ訪ねることを決意する。
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【 ここで、荒節と本枯節の違いをどうぞ! 】
~ 荒節と本枯節の違い ~
荒節(あらぶし)は ・・・鰹をいぶして乾燥させた状態のもの。
本枯節(ほんかれぶし)は ・・・その荒節に、5回も6回もカビをつけて天日にさらした状態のもの。いいカビに水分を吸ってもらっている。そうすると魚臭さが抜ける。
削り節にして売る場合は、荒節を削ったものを、かつお削りぶし。
本枯節もしくはそれに準ずる枯節を削ったものを、かつおぶし削りぶしと呼ぶように法律で決まっている。
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おせんは江崎と共に焼津に向かう。
「ヤマジョウ」では、昔ながらの手作りで本枯節を作っていた。
鰹の身から骨を抜き、すり身をつけて成形する。
それを大きなカマドで熱と煙でいぶし乾燥させる。
その後、天日で干し、翌日は燻し・・・を1ヶ月ほど繰り返して、やっと荒節になる。
本枯節は、その荒節にカビつけ作業をし、カビつけ庫にいれて2週間寝かせる。
一番カビが表面を覆ったら、半日天日にあてる。それでまたカビをつけて20日かけて2番カビをはやして、天日に干して・・・そしてまたカビをつけて・・・を繰り返して5番カビまでつけて、半年かけてやっと本枯節になる。
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かつお節職人でもあるヤマジョウの社長(夏八木勲さん)は胸を張っていう。
「本枯節は日本のつくりあげた最高の食材のひとつだ。
焼津かつお節はおらの誇りだで」
だが、そんな社長も、工場のことになると肩を落としてしょげかえる。
「エンプールという会社がここを買い取って鰹節パックの大工場を建てたいといってきた。本枯節はできなくなるが、悪い話ではないんだ。
6千万の借金がある。これ以上、工場のみんなにも妻にも無理はさせられない・・・」
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おせんの説得につらそうな表情を見せる社長夫婦。。。
「おせんちゃん、(天才職人といわれていた)藤坂次郎にも負けない本枯節ができたんだ。
それを一升庵で使っておくれ・・・。そしてそれで、もう・・・勘弁しておくれ」
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焼津の漆黒の夜の海をみつめて一人、酒を飲むおせん。
「どうしたんですか?おせんさん・・・」
江崎が心配して声をかける。
「な~んも見えねえでやんすよ・・・。
これだけ暗けりゃ、右も左も歩けねえでやんすな・・・」
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おせんと江崎が帰り支度をしていると、そこへエンプールの担当者矢田(加藤雅也さん)が訪ねてくる。
矢田は横柄な態度で社長に契約書を置いて帰っていく。
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一升庵にもどったおせんは、偶然お客からエンプールの矢田があの藤坂次郎の息子であることを聞かされる。
おせんは早速江崎にそのことを話す。
「泣き寝入りしていくしかないんでしょうね。時代ってやつの前に・・・。」
「じゃあ、直接、矢田守に聞きに行けばいい。
藤坂次郎の息子がなんで自分の手で本枯節の息の根をとめるようなことをするのかって。
まず事情を聞きましょう。」
江崎はおせんにそう提案する。
二人の話を聞いていた留(向井理さん)はそれを否定する。
「お前、借金の怖さを知らないだろう?下手に動いて買収話が流れたらどうする?余計なことはするな!」
「一升庵を守るためならなんでもするのが、おせんさんの仕事なんじゃないんですか?
ヤマジョウのおやじさんに夜逃げをしてもらおう!
・・・ダメか・・・。じゃあ、藤坂次郎の息子とできちゃうっていうのはどうですか?
工場の隅で本枯を作らせてくれるかもしれないし・・・。」
「いい加減にしろよ!バカを言うな!」
留の言葉に反論する江崎。
「どんだけバカなことでも、どんだけ汚いことでも、
どんだけカッコ悪いことでも1%の可能性でもあればやる。
何かを守るってことはそういうことなんじゃないんですか!
俺にはおせんさんが必死で一升庵を守ろうとしてるようには思えない!
おせんさんが守ろうとしてるのは・・・みんなに優しいいい子のおせんちゃんつうか・・・」
江崎はそこまで言って、慌てておせんに言い過ぎたと謝るが・・・。
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翌朝、おせんは出かけていく。
「人って暗い中でも大体、歩けるもんですね。
手探りでも歩いていると、なんとなく道が見えてきて・・・。
すこし歩いてきます」
そう江崎に言いおいて。
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おせんはエンプールの矢田と会う。
矢田はおせんに父、藤坂次郎のことを話す。
父には借金と女で苦労させられた。でも離婚した後も母は「何があっても日本一の鰹節職人藤坂次郎は自分の誇りだ」と言って、父の最期を看取ったのだと。
父を今も恨んでいるという矢田に、おせんは思い切って言う。
「このままでは本枯節がこの国から無くなってしまうかもしれません。
お母様が自分の誇りだとおっしゃった本枯節がなくなってもいいんですか?」
「それは、私のせいじゃない。
時代のすう勢。国民の趣向。日本という国がおのずからそれを求めたんです。そして今この現状がある。その現状をふまえて私は商売をしてるだけだ。
母の誇りは私の誇りでもありますが。
私の中で本枯節は私の父、藤坂次郎で終わってるんです」
去っていく矢田におせんはそれ以上何も言えなかった。
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翌日、「ヤマジョウ」の社長夫婦が一升庵へやってくる。
明日、エンプールの契約があるという。
おせんは矢田に会って話したことを伝え、契約に支障が出たら申し訳ないと謝る。
夫婦は快くおせんを許してくれる。
そして、一升庵のお料理をはやく食べさせてほしいと催促する。
おせんは焼津でもらった極上の本枯節を手にして、丁寧に丁寧に削り始める。
その削りたてを食する夫婦。
社長は口からハラハラとかつお節をこぼしながら、その味に感激する。
「うめえなあ~、おれは天才だで~」
おせんはそれを見ながら、ふと子どもの頃、母に教えてもらいながら初めてかつお節をかいた時のことを思い出す。
「どうだい。おせん。はじめて自分でかいたかつお節の味は?
そんなにうまいか。
つなげ、おせん。
その味を舌にしっかり刻み込んで、受け継いで、つなぐ・・・。
それが女将の仕事だ。
大切なのはつなぐことだ」
先代女将、母の言葉が蘇る。。。
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「畜生!
なんでこんなうめえもん。・・・なんでみんな食ってくれねえんだ!!」
感極まった社長は涙ながらにそう叫ぶ。
それを聞いた留は静かに話しはじめる。
「俺のおやじも昔、本枯節を作ってました。
借金だらけだったのに、えらそうに俺は日本一のかつお節をつくってるんだっていつも自慢して・・・。
俺はそんなおやじが自慢で・・・。
うちの父ちゃんは日本一うまいかつお節を作ってるんだって友達や先生にいってました。
でも、うちのおやじは本枯を捨てて、削り節パックの工場に転換したんです。
生活はウソのように楽になって、おやじは外車に乗って、俺もぼっちゃん暮らしができるようになりました。
俺には家族を養うために本枯を捨てる決断をしたおやじをうらむなんて気持ちはまったくありません。むしろ感謝しています。
だけど、俺はもう二度と、あの一言が言えないと思うと寂しいです。
おやじに日本一の鰹節をつくってるんだと、そう言わせてやれないことがすこし悔しいです。」
それまで黙っていた社長夫人が口をひらく。
「おせんさん、なんかいい知恵ないかな・・・。
この人の本枯は、私と工場のみんなの誇りなんだよ。
おせんさん、なんとか・・・」
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おせんは、社長夫婦の切ない思いを受け止める。
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「・・・つなぐことが仕事だと、
この舌に味を刻み、受け継ぎつなぐ。
それが女将の仕事だと先代より教わりました。
それこそが私の生きる意味だと、友に教えられました。
そして、それは一升庵をつなぐことでもあります。
こんだけの香り、
こんだけの味、
こんだけの仕事、
なによりこんだけの心意気。
一升庵、200年ののれんに誓って、わっちがつながせていただきます!」
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社長の「こんなうまいもん、なんでみんな食ってくれないんだ」に、思わずポロポロ涙が出ました。
あの表情、たまりませんでした。
一流の技術をもっていても、つぶれていく。
苦しくつらいことです。
江崎の言うとおり、最後の最後まで1%でも可能性があるなら、いや、1%の可能性を探して、知恵を働かせてあがいて欲しい。。。
おせんはどうやって、つないでいくんでしょうね。
細くても長くつないでいくために、おせんがどんな知恵を働かせるのか楽しみにしたいと思います。
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ちなみに、今回とりあげられた本枯節。
荒節は、かつお削り節と表示され、本枯節はかつおぶし削り節と表示されると知ったので、翌日さっそくスーパーのかつお節売り場を見てみました。
そうしたら、ほんとにその通りの表示が。
そして、棚の一番上の高いかつお節には本枯節のかつおぶし削り節が!
表示どおりのものがあったこと、そして田舎のスーパーにも本枯節のものがきちんおいてあったことがなんだかうれしかったです。
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